top of page


物語詩『魔法使いと湖の妖精』第二部(龍 博詞 作)
『火の獅子をしずめた者の物語』 第一章 言葉をなくした旅人 声を失ったディプセウスは 宮殿の宴に呼ばれなくなりました。 人々はディプセウスを哀れみ どう接してよいのかわからず しだいに距離を置くようになりました。 ディプセウス自身もまた 言葉を持たぬ自分に絶望し 人の輪を避けるようになりました。 やがてディプセウスは 砂漠の王国を静かに去り 隠れるように各地を歩く旅に出ました。 人里を離れて森に入り 動物たちと暮らすようになったのは それからしばらく後のことです。 動物たちとの暮らしに 言葉は必要ありませんでした。 ディプセウスは 生まれて初めて 何も語らずに生きる時間を知ったのです。 ディプセウス、砂漠の王国を去る 第二章 火の獅子のうわさ ある日 遠くの都から飛んできた鳥が 不安な知らせを運んできました。 都市で起きた戦争と火事が 長い火の道をつくり その中に 火の獅子が生まれたというのです。 燃えるたてがみ 炎の息 怒りだけで形づくられた獣。 その獅子が 森へ向かって進んでいると 鳥は震えながら告げました。 ディプセウスは 森に住む仲間
2月13日読了時間: 4分


物語詩『白い帆と花束の丘』(龍 博詞/Hiroshi Ryū)
『白い帆と花束の丘』 紺青の海と白岩の岸 その島に若者は生きていた 潮の満ち引きが繰り返され 明日は来るものだと疑わずに この地で愛おしい娘を妻に迎え 名もなき時間を重ねていくこと それが幸福なのだと 彼は思っていた だがある日 水平線の裂け目から 白い帆が現れた 風を孕んだ帆は まだ見たことのない 世界の息づかいを運び 若者の胸に眠っていた 問いを呼び覚ました 外の世界を知らずに ここで暮らすことが 幸せなのだろうかと その日から彼の視線は 足元の浜ではなく遠い大海原へ 向けられるようになった 若者には恋人がいた 白百合のように純真で 素朴な美をまとった娘 月が海を銀に変える夜 若者は浜辺で恋人に 胸の内を開いた 広大な海を渡り まだ見ぬ異国に触れて 己の力を試してみたいという 白い帆が運んできた幻の望みを その言葉の奥に娘は 戻れない分かれ道を見た そして涙をこらえて静かに言った 「あなたが あなた自身を裏切らずに 生きるのなら」 月の下で ふたりの影はひとつに重なり やがてほどけた 白百合の香りだけが 夜の浜に残った 選ばれなかった言葉のよ
1月18日読了時間: 3分


物語詩『魔法使いと湖の妖精』第一部(龍 博詞 作)
『水の環をうばった者の物語』 第一章 なくならない湖と青い指輪 森のいちばん奥に いつも静かに水をたたえる湖がありました。 その湖は どんな日照りの年にも 一度も干上がったことがありませんでした。 湖に住む妖精リュミアは とても心のきれいな存在でした。 人を疑うことを知らず 困っているものを見れば すぐに手を差し出す妖精でした。 天の高いところには 世界のしくみを見守る神 アルケオンがいました。 けれどアルケオンは ひとりひとりの願いごとには あまり耳を向けません。 人びとの祈りは 風のように通りすぎていきました。 ある日 アルケオンは気まぐれに ひとつの青い指輪をリュミアに与えました。 それは 水の流れを導き 世界をめぐる力をまとめる アクアマリンの指輪でした。 リュミアはその指輪の力で 雨の少ない年にも湖を満たし 森をうるおし たくさんの命を守りつづけました。 水がなくなることなど 考えたこともありませんでした。 湖の妖精リュミア 第二章 良さそうで欲ばりな考え そのころ 人間の国との境に ディプセウスという魔法使いがいました。 ディプセウス
1月8日読了時間: 4分
bottom of page