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龍博詞
ホームページの管理者・龍博詞が作ったオリジナルの詩です。


物語詩『魔法使いと湖の妖精』第二部(龍 博詞 作)
『火の獅子をしずめた者の物語』 第一章 言葉をなくした旅人 声を失ったディプセウスは 宮殿の宴に呼ばれなくなりました。 人々はディプセウスを哀れみ どう接してよいのかわからず しだいに距離を置くようになりました。 ディプセウス自身もまた 言葉を持たぬ自分に絶望し 人の輪を避けるようになりました。 やがてディプセウスは 砂漠の王国を静かに去り 隠れるように各地を歩く旅に出ました。 人里を離れて森に入り 動物たちと暮らすようになったのは それからしばらく後のことです。 動物たちとの暮らしに 言葉は必要ありませんでした。 ディプセウスは 生まれて初めて 何も語らずに生きる時間を知ったのです。 第二章 火の獅子のうわさ ある日 遠くの都から飛んできた鳥が 不安な知らせを運んできました。 都市で起きた戦争と火事が 長い火の道をつくり その中に 火の獅子が生まれたというのです。 燃えるたてがみ 炎の息 怒りだけで形づくられた獣。 その獅子が 森へ向かって進んでいると 鳥は震えながら告げました。 ディプセウスは 森の奥で眠る動物たちを見つめ 胸の奥に 感じ
2 日前読了時間: 4分


詩『永遠という名の鎖/A Chain Called Eternity』(龍 博詞/Hiroshi Ryū)
縛られない自由な心は揺れ動き
揺れるからこそ生き続ける
―生きる心は自由を恐れないから
1月31日読了時間: 2分


物語詩『白い帆と花束の丘』(龍 博詞/Hiroshi Ryū)
『白い帆と花束の丘』 紺青の海と白岩の岸 その島に若者は生きていた 潮の満ち引きが繰り返され 明日は来るものだと疑わずに この地で愛おしい娘を妻に迎え 名もなき時間を重ねていくこと それが幸福なのだと 彼は思っていた だがある日 水平線の裂け目から 白い帆が現れた 風を孕んだ帆は まだ見たことのない 世界の息づかいを運び 若者の胸に眠っていた 問いを呼び覚ました 外の世界を知らずに ここで暮らすことが 幸せなのだろうかと その日から彼の視線は 足元の浜ではなく遠い大海原へ 向けられるようになった 若者には恋人がいた 白百合のように純真で 素朴な美をまとった娘 月が海を銀に変える夜 若者は浜辺で恋人に 胸の内を開いた 広大な海を渡り まだ見ぬ異国に触れて 己の力を試してみたいという 白い帆が運んできた幻の望みを その言葉の奥に娘は 戻れない分かれ道を見た そして涙をこらえて静かに言った 「あなたが あなた自身を裏切らずに 生きるのなら」 月の下で ふたりの影はひとつに重なり やがてほどけた 白百合の香りだけが 夜の浜に残った 選ばれなかった言葉のよ
1月18日読了時間: 3分


物語詩『魔法使いと湖の妖精』第一部(龍 博詞 作)
『水の環をうばった者の物語』 第一章 なくならない湖と青い指輪 森のいちばん奥に いつも静かに水をたたえる湖がありました。 その湖は どんな日照りの年にも 一度も干上がったことがありませんでした。 湖に住む妖精リュミアは とても心のきれいな存在でした。 人を疑うことを知らず 困っているものを見れば すぐに手を差し出す妖精でした。 天の高いところには 世界のしくみを見守る神 アルケオンがいました。 けれどアルケオンは ひとりひとりの願いごとには あまり耳を向けません。 人びとの祈りは 風のように通りすぎていきました。 ある日 アルケオンは気まぐれに ひとつの青い指輪をリュミアに与えました。 それは 水の流れを導き 世界をめぐる力をまとめる アクアマリンの指輪でした。 リュミアはその指輪の力で 雨の少ない年にも湖を満たし 森をうるおし たくさんの命を守りつづけました。 水がなくなることなど 考えたこともありませんでした。 湖の妖精リュミア 第二章 良さそうで欲ばりな考え そのころ 人間の国との境に ディプセウスという魔法使いがいました。 ディプセウス
1月8日読了時間: 4分


物語詩『水の環を奪いし者の物語』(龍 博詞/Hiroshi Ryū)
第一章 尽きぬ湖と与えられた環 森の奥に澄んだ水をたたえる湖 その湖は枯れることがなかった。 湖に棲む清らかな妖精リュミアは 疑うことを知らぬ存在であった。 天上のアルケオンは世界の理を司りながら 地上の個々の行く末には関心を払わぬ主神。 祈りは風のように彼をすり抜けていった。 あるときは気まぐれに ひとつの指輪をリュミアに与えた。 水の流れを命じ、世界への巡りを束ねる アクアマリンの環を。 リュミアはその青い指輪の霊力により 目まぐるしく変転する気候に抗して 湖を満たし、森を潤し、命を守り続けた。 その永遠にも近い水の充足は 「失われるかもしれない」という想像を 彼女の内から奪っていった。 第二章 正義をまとう欲望 そのころ、人の領域との境界あたりに ディプセウスという魔法使いがいた。 彼は言葉を操り、姿を変える術に長けていた。 海の向こうの砂漠にある王国の噂―― 雨なき空、細る泉、枯れゆく命の噂を聞き 「水に欠乏する地があるのなら、 満ちあふれる地より移せばよい」と考え その理屈は彼の中で正義の衣をまとった。 「話に聞くあのリュミアの指輪さえ
1月8日読了時間: 4分


物語詩『王アシャルの変身譚』(龍 博詞/Hiroshi Ryū)
『王アシャルの変身譚』 プロローグ すべての権力を掌に収めた老王アシャル かつて彼は剣で舞い、盾に名を刻み 戦場は彼の采配で勝利を手繰り寄せた。 彼は鎧をまとい、塵と血の雲を割って進み 都市を屈服させ、財宝を山と積み上げた。 しかし、忠誠はあったが真の友はなく 勝利はあったが安らぎはなかった。 独りの夜、王冠を外した彼の頭上には 星々のみが沈黙して瞬いていた。 第一章 白き使者の書簡 老王アシャルの胸には終末の風が吹き始め 彼は自らに問うた 「我が人生は何を生み出したのか」と。 ある憂鬱の日、高き空より白い鳥が舞い降り 城の頂にある王の部屋の窓辺に止まった。 白い鳥が嘴で差し出した一通の書簡には 東方の神秘の国より届けられた魔術師の言葉 ――汝、すべてを持つがゆえに空虚なり ――すべてを捨てる覚悟があるならば 若さと放浪と再び鼓動する魂を与えよう ――選ぶなら、この使者の頭を三度撫でよ 王は震えながら 冠と剣、築き上げた帝国を秤にかけた。 そしてついに、彼は自らに言い聞かせた 「生の歓喜なき永命はすでに死である」と。 王の老いた指が三度白き頭に
2025年12月31日読了時間: 3分


物語詩『2050年、沈黙の居住区』(龍 博詞/Hiroshi Ryū)
『2050年、沈黙の居住区』 居住区は生命維持装置となった。 知性は人工知能に委ねられ 感覚は人工の楽園に浸され 数万人の生命が管理される褐色の巨塔。 選び抜かれた光 調律された音 合成された香り 最適化された食 計算し尽くされた皮膚への刺激。 欲望は細分化されカスタマイズされ 不足という言葉は、いつしか消えた。 やがて人びとは、それぞれの殻へと 静かに引きこもっていった。 長いあいだ開かれることのなかった 巨塔の一室の前で ノアとタクティオの仲間たちは立ち止まる。 硬く閉ざされた扉 内側にあるのは沈黙のみ。 タクティオ――触れ合いを大切にする人びと 彼らは外を歩き、互いの声を聞き 詩を読み、絵を掲げ 楽しみを創造しながら生きてきた。 そして、彼らは知っていた。 人間は、単独で完結する存在ではないことを 関係のなかでこそ人は人間になることを。 ノアは扉を叩き 低く、しかし確かな声で住民の男の名を呼んだ。 何度も、何度も―― やがて――扉はきしみ 長い眠りから覚めるようにゆっくりと開いた。 現れたのは 人間から遠ざかってしまった存在。 背は湾曲し、
2025年12月21日読了時間: 2分


物語詩『透ける皿と満ちる倉/The Transparent Plate and the Overflowing Granary』(龍 博詞/Hiroshi Ryū)
『透ける皿と満ちる倉』 ある山あいの国に昼も夜も手を止めぬ人々がいた。 岩を砕き鉱石を掘り、闇の奥からかすかな光を掬い上げ、 それを宝石として磨きあげて、惜しみなく王に献じた。 王はそれらを交易に回し、 宝石は穀物となり布となり、黄金に姿を変えていった。 年ごとに国の倉は高く、高く積み上がり、 やがて雲の影をその肩に抱くほどになった。 人民思いを装う王は人々に言った。 「倉が満ちれば、いずれお前たちの皿も満たされる」 その声は穏やかで、言葉に疑いの影はなかった。 だから人々は働いた。 身体が悲鳴をあげても、手のひらが裂け血が滲んでも、 王が定めた月の満ちる日には、 息を詰めるように磨き上げた宝石を捧げ続けた。 倉はさらに高く、さらに重くなり、 王は誇らしげに告げた。 「国はかつてなく豊かである。 余剰は積み上がり、この国の未来に不安はない」 だが不思議なことに、 人々の皿はいつまでも浅いままだった。 子もまた親の背を追って働いたが、 皿の底は透け、満ちることはなかった。 ある日、臣下を連れ交易へ向かう王の前に、 ひとりの若者が進み出た。 声は震
2025年12月13日読了時間: 4分


寓話詩『晩秋のある日の森で/On an Autumn-Evening in the Forest』(龍 博詞/Hiroshi Ryū)
『晩秋のある日の森で』 秋も深まり、冬の足音が土の底からかすかに忍び寄るころ。 夕暮れの野原では、名残の花がそよぎ、 渡り鳥たちは冷たい風に抗うように、細い声で風に応えるように鳴きかわしていた。 その静寂のひと隅で、兄弟はばったりと出会った。 「これは兄さん。どちらかへの遠征の帰りですか?」 「よう、弟よ。今日はマンヒューの領分に、少しばかり稼ぎに行ってきた」 「あそこは危ないですよ。ご先祖様の教え、忘れないでください」 兄はふっと鼻を鳴らした。 「俺はあんな奴ら、少しも恐れちゃいない。 昔はマンヒューも森との境をわきまえていたらしいが… 長い間に前とはすっかり変わっちまった。 年ごとに欲深くなり、森に爪ばかりを立てやがる」 生まれつき血の気の多い兄は、積もった落葉を蹴り上げた。 葉は夕陽を受けて火の粉のように舞い、その中で兄は吠えた。 「この大地は誰かの私物じゃない。 生きとし生けるものは皆、神から借りた時間を、 ほんの束の間だけ生きているに過ぎん。 それを忘れ、森を荒らし、 我らの種族を追いやろうとする奴らを決して許しはせん。.
2025年12月5日読了時間: 3分


物語詩『闇の窓/The Window of Dark』(龍 博詞/Hiroshi Ryū)
『闇の窓』 賢きアシャル王は、地下に設えた秘密の部屋で 黒鏡の前に座し、揺らぐ蠟燭の影を背負いながら ひとり呟く。 「いったい何というものだ。 この魔法の黒鏡―― 鏡板を抱く縁取りの銀細工は星辰の意匠、 きっと名のある職人の手によるものに違いない」 だが真に畏るべきは、鏡板そのものに宿る霊威。 この世界の森羅万象は、その闇の底へ吸い込まれ、 見えざる網の振動を伝って叡智界へと届く。 そして彼方の神聖なる叡智界より編み戻される糸は、 瞬きよりも早く預言を結び、鏡面に兆しを刻む。 まさに、叡智の風が流れ込む闇の窓であった。 かつての王は、己が胸奥に燃ゆる思索の焔を頼みとしていた。 臣下や民の声に耳を澄まし、 いざ決断の折には雷鳴のごとき言葉で国を導いた。 ――紫の巨大な翼が城を覆った、あの陰鬱の夜までは。 愛しきクラリス姫の身体は、熔けた岩のように灼熱し、 肌には赤黒の斑が噴き出ては沈んだ。 純白のドレスを春の花のように纏っていた姫は、 小鳥のさえずりに似た愛らしい声を失い、 砂嵐を胸に呑み込んだかのような苦悶と、 紫の靄が満ちる朦朧の中で喘いでいた
2025年12月1日読了時間: 5分
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