『水をめぐる物語~湖の妖精と魔法使い』第一部
- 225hiroh716
- 1月8日
- 読了時間: 4分
更新日:4月21日
『水の環をうばった者の物語』
第一章 なくならない湖と青い指輪
森のいちばん奥に
いつも静かに水をたたえる湖がありました。
その湖は
どんな日照りの年にも
一度も干上がったことがありませんでした。
湖に住む妖精リュミアは
とても心のきれいな存在でした。
人を疑うことを知らず
困っているものを見れば
すぐに手を差し出す妖精でした。
天の高いところには
世界のしくみを見守る神
アルケオンがいました。
けれどアルケオンは
ひとりひとりの願いごとには
耳を傾けません。
人びとの祈りは
風のように通りすぎていきました。
ある日
アルケオンは気まぐれに
ひとつの青い指輪をリュミアに与えました。
それは
水の流れを導き
世界をめぐる力をまとめる
アクアマリンの指輪でした。
リュミアはその指輪の力で
雨の少ない年にも湖を満たし
森をうるおし
たくさんの命を守りつづけました。
水がなくなることなど
考えたこともありませんでした。

第二章 良さそうで欲ばりな考え
そのころ
人間の国との境に
ディプセウスという魔法使いがいました。
ディプセウスは
言葉をあやつるのが上手で
姿を変える魔法も使えました。
あるときディプセウスは
海の向こうにある
砂漠の国の話を聞きました。
雨がふらず
泉は細り
人も動物も苦しんでいるという話です。
子どもたちは乾いた器を抱えたまま
空を見上げているということでした。
ディプセウスは考えました。
「水がたくさんある場所から
足りない場所へ水を運べば良いではないか」
その考えは
だんだんとディプセウスの中で
「正しいこと」のように思えてきました。
「もし、あの湖の妖精が持つ
青い指輪を手に入れたら
砂漠の国は助かるだろう。
そして、わたしは
王さまから大切にされるにちがいない」
そう考えるうちに
奪うことは悪いことではない
むしろ正しいことなのだと
信じこむようになりました。

第三章 赤い指輪のわな
ディプセウスは商人に姿を変えて
湖のほとりへ向かいました。
そして
自分で木に逆さにつるされ
助けを求めて大声で叫びました。
その声を聞いたリュミアは
考えるより先に
ディプセウスを助けました。
ディプセウスは
盗賊におそわれたという作り話をし
お礼だと言って
赤く光る宝石の指輪を差し出しました。
燃えるような赤い指輪は
リュミアの心を強く引きつけました。
「こちらの指輪も
一度ためしてみてはいかがですか」
リュミアは少し迷いましたが
こう思いました。
「アルケオンさまの指輪は
なくなったりしないわ」
でも赤い指輪をはめた瞬間
体に熱が走り
青い指輪は指からはじき飛ばされました。
湖の水は
声も出せずに空へと散っていきました。
ディプセウスは姿を烏に変えて
青い指輪をくわえ
空高く飛び去りました。

第四章 水は移りつづける
水はとどまりません。
ひとつの場所から失われた水は
別の場所であふれ
その地をうるおします。
そのかわり
もとの場所には
かわきと悲しみが残ります。
ディプセウスは砂漠の国へ行き
青い指輪の力を見せました。
枯れかけた泉から水がわき
人びとは喜びの声をあげました。
彼は救い主と呼ばれ
たくさんのほめ言葉を受けました。
けれどその間
湖を失ったリュミアは
かわいた湖の底で
森や動物たちとともに
ただ静かに耐えていました。

第五章 はかる者の言葉
リュミアは天に向かって
アルケオンの名を呼びました。
けれど神は
すぐに裁きを下しませんでした。
「裁きを求めるなら
裁定者メトリアのもとへ行け」
リュミアは体をふるい立たせ
天へと昇っていきました。
メトリアは言いました。
「この世界のものは
すべて限りがある。
ひとつが満ちれば
どこかが欠ける」
「お前の湖が失われたことで
砂漠はうるおった。
では次に
何を失わせるのか」
リュミアは答えました。
「うそを重ね
水を奪った者の言葉を」
はかりは静かに傾きました。

第六章 言葉を失った夜
その夜
ディプセウスは宮殿の宴にいました。
人びとはディプセウスをたたえ
王はほほえみました。
そこへ
水色の衣をまとった美しい女性が現れ
特別なぶどう酒をすすめました。
ディプセウスは
疑うことを忘れていました。
その赤い酒を口にした瞬間
舌に熱が走ってかわき
言葉は消えていきました。
ディプセウスの枯れた舌は
もう言葉をつむぐことができなくなりました。

エピローグ めぐるもの
水を手に入れようとした魔法使いは
言葉を失いました。
やがて湖には水がもどり
森は息を吹き返しました。
それは
怒りでも
罰でもありません。
ただ
世界のしくみが
もとの形に戻っただけのことでした。



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